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フィン・ユールとジャン・プルーヴェ
2022.10.13
伊原 洋光

こんにちは。hm+architects の伊原です。

住まいを考えますと、当然ながら建築だけでは十分でなく、豊かな暮らしは、家具によって支えられているとも言えます。
偶然のようですが、その家具に関する興味深い展覧会が2つ、ほぼ同時期に開催されており、実物を見る貴重な機会と思い行ってきました。

1つは、東京都美術館での「フィン・ユールとデンマークの椅子」。会期は先週末の10/9まで。
もう1つは、東京都現代美術館での「ジャン・プルーヴェ展」。今週末の10/16まで開催中です。
それぞれ、魅力的な展示でしたので、写真多めですがご紹介します。

「フィン・ユールとデンマークの椅子」について

フィン・ユール(1912-1989)は、デンマークの家具デザイナーです。ひときわ美しい家具をデザインしたことで知られ、優雅な曲線を特徴とするその椅子は「彫刻のような椅子」と評されています。

展覧会は3部構成で、はじめに「デンマークの椅子 そのデザインがはぐくまれた背景」の紹介がありました。1930年代から60年代に黄金期を迎えたデンマークの名作家具がズラリ。

アルネ・ヤコブセン 革張りの「ドロップ」1958年、ハンス J・ウェグナーの上着のハンガー+座面を立ててズボン掛けになる「ヴァレットチェア」1953年、さらにボーエ・モーエンセン「シェルチェア」1949年、ヴェルナー・パントン「バチェラーチェア」1955年などなど、なかなか見ることのできない当時の家具を拝見。やはり存在感がありますね。

次はメインの展示となる「フィン・ユール家具」の数々。

こちらは、フィン・ユールの代表作「イージーチェア No.45」1945年ですが、「世界で最も美しい肘をもつ椅子」と言われる芸術的作品です。

フィン・ユール邸リビングの書斎コーナーに置かれている「ワークテーブル」1945年。天板の小口や脚部のディテールなどにこだわり満載です。
上部のペンダント照明は、ヴィルヘルム・ラウリッツェン設計の「VL45 ラジオハウスペンダント」。フィン・ユールが好んだ照明として知られ、自邸でも使われています。

個人的に興味深かったのが「ペリカンチェア」1940年 です。今から80年以上前にデザインされたものとは思えない・・むしろ現代のデザインテイストに近い造形ではないでしょうか。合理性だけでは決して生まれないチャーミングなフォルムです。

そして最後は、椅子研究者の織田憲嗣氏が収集している、世界的にも名高い「織田コレクション」が公開され、その椅子たちに実際に座ることができるという超太っ腹な体験型の展示となっていました。

なんと、こちらの「ペリカンチェア」にも座れました。
そして見た目以上に心地よい座りやすさで、さらに感動!

ぱっと見たところ控えめなデザインに感じる「ジャパンチェア」1957年。しかしこちらも強く印象に残った椅子の1つ。
よく見ますと、背板と座面が木製フレームから軽やかに浮かんでいるデザインで、品位を感じます。フィン・ユールは、日本の伝統的建築空間に強い関心を抱いていたそうです。

「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」について

20世紀の建築や工業デザインに大きな影響を与えたジャン・プルーヴェ(1901-1984)。
家具では特に1934年につくられた椅子、のちに「スタンダードチェア」として知られるデザインが有名です。また国際的に大きく注目されたフランス「ポンピドゥー・センター」設計競技(1971年)の審査委員長も務めています。
デザインから生産までをトータルに捉え、素材と技術、構造と機能を備えた家具を多く生み出しましたが、家具をつくることと建築をつくることに隔たりがないと考えたプルーヴェは、その「建設的思考」により組立・解体が可能な建築や建築部材を考案します。展覧会場にはそれら実物が多数搬入され、建築として組み上げられた展示もあります。タイトルの通り「椅子から建築まで」を全て原寸で見ることができる特別な展覧会だと思いますので、まだの方は是非!

写真は少しマニアックに、下から家具のフレームを写したものが多くなっておりますが、ご容赦ください。


プルーヴェの作品集(洋書)は今、高価なものも多く入手は以前より難しくなっているので・・今、思い返しますと24年くらい前に出版された洋書の大型本を頑張って購入しておけば良かったなぁと、少し悔やまれます。

ちなみに展覧会図録(2800円+税)は内容も素晴らしく、オススメです!

激動の20世紀に家具を多く生み出し活躍された、フィン・ユールとジャン・プルーヴェ。2つの展覧会を通じ、デザインは手仕事的な曲線のクオリティであったり、エンジニア的な視点で工業化を目指すなど、手段は異なりますが、それぞれ1点1点のプロダクトへ込められたエネルギーの凄さ・奥深さをあらためて学ぶ機会となりました。

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